「申し訳ございませんが
そろそろ閉店になります」
いつの間にか照明のおとされた店内には
誰もいなくて僕達だけになっていた
ユノさんが会計を済ませて店を出ると
僕にメモを手渡す
「これは?」
「俺の実家の電話番号と住所
チャンミン持っててくれないかな
何かあった時のために
一応ね」
「何かって?
ユノさんの身に何かがあったらとかそう言う事?」
「とりあえずって事だよ
深く考えなくていいから」
「そんな...
そんなの嫌だよ....」
「お願いだから持ってて
チャンミンだから渡すんだよ
同じ韓国人だしな」
一体何があったって言うんだ
この時代のユノの身に何が.....
エレベータを降りて1階の広いロビーに出る
吹き抜けの三角のガラスの天井に聳え立つ大きなツリーの前
ユノさんは無言で足を止めて
内ポケットから煙草を取り出し火をつける
ふぅ~っと
溜め息の様な煙を静かに吐きながら
「ホスト時代にね..
世話になった先輩がいたんだ
日本に来てまもなくて何も分からない俺を
弟みたいに可愛がってくれてさ」
そう切り出すと
ユノさんの話が再び始まった
ある日その先輩ホストに呼ばれて
店に行った時の事
いくら待っても先輩は現れず
店を出ようとしたその時
店長からの電話が鳴りユノさんが出たそうだ
「今、怪しい男が
店に入っていったのを見たってやつから通告があったが
お前ひとりか?」
「はい僕だけです」
「そこで何してる?」
「あ、いえ別にもう帰ります」
そう言ってユノさんは帰宅をして
翌日普段通りに出勤すると
店内では大変な騒ぎになっていたらしい
その理由は
店の金庫から大金が消えていたと
そしてその先輩はそれっきり
2度と店に姿を見せることはなかった
「そんな…
ユノさんじゃないのになんで!?
もしかしてその先輩ホストの人が……」
「あぁ
ハメられた....
笑っちゃうよな俺ってバカだろ?」
「そのお金は?
結局どうなったんですか?
まさかユノさんが払ったの?」
「....6年間払い続けた
でも、一生かかってもとても払える金額じゃないから....
結局逃げるようにしてマンション出て店もやめた」
「.....6年も
ユノさんが盗んだ訳じゃないのに..」
「どうにもならなかった…
俺の行くとこ行くとこ張られてたからな。
6年経って奴らが油断した隙に夜逃げ同然でね」
「今も追われてるって事ですか??」
「全額返金したわけじゃないから。
まだ半分にも満たないよ
ただ働き同然で朝から晩まで稼いでも追いつきやしない
そのうちに自分が何をしにここに来たのか分からなくなっちゃってさ
このまま行ったら俺にはもう後が無いって思ったし.....
どうせ後が無いなら自分に賭けてみようってね」
「後が無いって...そんな」
「とりあえず3年間は生き延びられてるから
俺わりと運が強い方かもなハハ...」
「じゃ、指名手配っていうのは……」
だから...
だから最初に僕と顔を合わせた時に
あんなに怖い顔して..
自分を捕まえに来たと思ったんだね....
「なんで正直に言わなかったんですか?
ちゃんと説明すれば分かってもらえたんじゃ...
その先輩って人にハメられたって…」
「一番どん底の時に俺を助けてくれた人だ」
「そんな...
そんな事行ってる場合じゃないですよ
その人は見つからないの?」
「一度だけ街で見かけたけど....」
「え?なんでその時に捕まえなかったの?」
「所帯持ったみたいだな
奥さんらしき人がいてさ
呼び止めようと思ったけど……」
「呼び止めなかったんですか?なぜ?」
「子供がいたんだ」
「え?」
「きっと何かの理由で
金が必要だったんだと思う
その時....
先輩凄くいい顔しててさ
子供と奥さんの事を見る目が優しいんだ
カリスマホスト時代の鋭い目つきとは全然違ってて
幸せそうだったな...」
自分をハメたホストを未だに先輩と呼び
まるで自分の事の様に幸せそうに
目を細めながらユノさんは語る
「なぜ警察には?
ある組織っていったい…」
「ああいう業界は常にバックが絡んでるから。
金絡みは警察には知らせずにその組織で解決して
見つけたらおそらく埋められるってことだな
警察も奴らの手下みたいなもんさ」
埋められるって...
命の保証も無いって事なのか...
この時代のユノがそんな危険な身に晒されているなんて
思ってもみなかった....
「仕事も....
ストリップショーの前座やゲストDJっていうのは....」
「身元確認が緩いからな
日雇いで昼間も身体使った仕事に行くけど
レッスン代でほとんど消えるしね
ひとつの仕事を長くやると足がついちゃうから単発が多いんだ」
「あの…
彼女と別れたのもそれが理由…ですか?
あ、すいません…気になっちゃって……」
「まぁね...
俺のせいであいつに危険を及ぼすんじゃないかって思ったら
耐えられなくなって自分から別れを告げてた。
俺.、あいつには自分の事何も話してなかったから
一方的な別れに納得いかなかっただろうな」
やっぱり.....
何か深い理由があるとは思ってた
でもその彼女の事以上に
ユノさんが悔しそうに話した事
それは
「もしかして
1回目のオーディションに合格したのに行かなかったって...
行かなかったんじゃなくて行けなかったんじゃ.....」
「.......うん
丁度その数日後が二次の面接の日でさ
俺その場で店の幹部の奴らにボコボコにされちゃったから…
そんな顔で行ける訳もないしな」
「え、殴られたりとかしたの?!
もしかしてじゃ...その顔の傷は...
...あ...すいません...」
「いいよ気にしてないから
消えてないだろ?
こんなんじゃタレントは無理だよな」
フッ.....っと小さく笑うと
ユノさんは人差し指と親指で
短くなった煙草を灰皿に揉み消した
「そんな事ないです!
そんなの問題じゃないです!
愛されればその傷も魅力のひとつになります!
それに …
それにユノさんは...
その、そういうとこも
おとこらしくて...
全部素敵だと思います!!」
はっ…………
また大声を張り上げてしまった・・・
人気がないロビーに僕の声が響き渡る
「あ...ごめんなさい僕、、
また大きな声だしちゃって、、」
その時
ユノさんが僕の身体を力強く抱き締める
「え、、
ユ....ノ...さ......」
がっちりとした大きなユノさんの腕に
すっぽり包まれる僕の身体
強く打つ心臓の鼓動
溢れ出る感情を抑えつける様に
ユノさんは小刻みに肩をピクッと震わせながら
無言でただ僕を
きつく強くかたく抱き締める
少し煙草の匂いがする領
耳元にあたる唇は柔らかくて熱くて
微かに触れるそのたびに
僕の耳朶は赤く染まった
ユノさんの息遣いが聴こえる
クリスマスツリーのブルーの電飾が
ユノさんの瞳に映り込み
青く潤んでいっぱいになる
そしてその小さな一粒が
僕の肩にポロリと零れ落ちた
愛のポチポチいつもありがとうございます!
更新の励みになってます感謝感激




前記事リリイベレポ
お疲れのところありがとうございましたm(__)m
コメ返は明日致しますね~
遅れて申し訳ないです(´;ω;`)
明日横浜参加される方楽しんできてくださいね!
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自分を騙した相手にも、幸せを壊してはいけないと思いやってしまう情の厚い人なんて、辛いな…
ユノさんには、必ず成功して欲しいな!
抱き締められながらユノさんの涙をみたチャンミンは、きっとユノさんを見捨てて現実の世界に帰れないですよね?
でも、チャンミンが現実に帰れる術はあるのかな?(>_<)
どうなるんだろー?
では、では~♪(*^^*)