「僕がユノと呼んだ日」1「僕がユノと呼んだ日」2長いフライトを終えて
ようやく目的の地に到着したのは夜だった
空港に降りた瞬間
生暖かい空気に包まれる
タクシーに乗りとりあえず僕は繁華街に向かった
ゆらゆらと揺れるネオン
一見きらびやかに見えるが
よく見ると質素な照明のライトアップ
街はバカンスで楽しむ異国人やローカルな人々でごった返している
僕はその中をサングラスもかけずに堂々と歩く
シムチャンミンだと気づく人は誰もいない
ここまで知らん顔されると何となく寂しい気さえもしたけど
顔を上げて風をきって堂々と人混みの中を歩くのはとても気分が良かった
そしてこの国は僕が思い描いていた光景とは少し違っていた事に
数時間もしないうちに気づく
そこには目を背けたくなるような現実がいくつもあったからだ
「ハロー」
少し歩くとひとりの少女が声をかけてきた
バレたか...?!
一瞬戸惑って目線を下に向け
前髪を手で押さえゆっくり振り向くと
そこには10~12歳くらいの少女が
破れかけた衣服を身につけ両手を僕の前に差し出す
何かくれ...?と言ってるのか?
そのまま通りすぎようとすると今度はカタトキの言葉で僕の腕を掴み
「ワタシヲカッテクダサイ」そう言った
あまりの幼い瞳のその言葉に僕は絶句してしまい
結局その少女に自分の持っていた一冊の本とガムを渡してその場を立ち去ろうとした
少女は深く頭を下げてにっこり微笑んだ
その表情は10代前半の少女そのままだった
異国人と分かると次々とそんな風に声をかけてくる子供達がここにはひっきりなしにいた
後から気づいたことだが
その子らの親はすぐ近くで子供の仕事を監視していて受け取ったお金や物は全て親に回収されている様だった
本来、子供たちはお金がほしい訳ではないのだろう
むしろ一冊の本だったりチョコレートやガムの方が嬉しいに違いない
衣類さえ身につけていない赤ん坊
物乞い する老人や妊婦
交通の激しい場所での物売りは
手足を片方無くしていたりと僕にはショックな事ばかりだった
必死で生きようとしているのは人間だけてはない
今にも命尽きてしまいそうな骨の浮き出た痩せ細った野良犬が
やっとのことで歩きながら僕の後を着いてくる
どうやら機内で食べたポテトチップスの臭いにつられて来た様だ
僕はその犬に残りのポテトチップスを全て与えて持っていたペットボトルの水を袋の上に出来るだけ多く流した
嬉しそうに夢中で水を飲む野良犬
狂ったようにポデトチップスにむしゃぶりつく
どこから来たのかあっという間に野良犬たちが集まってきて僕に食べ物をねだる
今にも飛びかかってきそうな勢いに恐怖を感じ僕はそこを逃げるように立ち去った
きっと何日も飢えを凌いでいたに違いない
生きるという現実を目の前に晒されている様だった
それもまだ到着してからまもなくの出来事だ
僕はここに来て良かったんだろうか
神が宿ると言い伝えのあるこの島
それでも街を一歩抜けると
手付かずの時間が止まった様な
あの写真で見た穏やかで風だけが動いている場所が確かにここにはあった
不思議な国だと感じながら僕はますますその国のとりこになって行った
ここに来て3日目になった頃
僕は宿泊しているホテルをチェックアウトして
あらかじめ予約していたホテルにチェックインしようとした時の事
ホテルのロビーにて
「シムですけどチェックインお願いします」
「はい シム様ですね少々お待ちください」
ここのホテルは実はずっと前から予約していた
それは勿論あの目的地に行くため
そこに訪れるのは最終日の明日にと予定をしていた
すぐに行かずに最後にしたのは
この国の事をもっと知っておいた方がいいと思ったから
そうでないと行く資格が僕にはないと思ったから
「シム様お待たせ致しました。
申し訳ごさいませんがその様なお名前では承っておりませんが」
「はい?
シムですシムチャンミンです!
そんなはずないですよだいぶ前から予約してましたから」
「承知致しました。再度確認してまいります」
嘘だろ.....
ネットから予約したよ僕....
マネージャーにもこのホテルの場所言ってきたし....
「シム様お待たせ致しました。
再度ご確認致しましたところシム様のお名前でのご予約はお電話でキャンセルなされていらっしゃいますね」
「キャンセル?そんなはずありません!
してませんからキャンセルなんて」
「シム様でキャンセルなされていますが再度チョン様名義でご予約されていらっしゃいます。」
え....
チョンってまさか.....
「あの...フルネームを教えてください」
「チョンユンホ様ですね
既に先程チェックインなされていますね。」
その時だった
後ろから両肩をガシッと強く掴まれ厚みのある胸板が背中にあたった
「チャンミナ」
振り返るとそこにはユノがいた
つづく
(この物語はフィクションです)
いよいよユノの登場です^^:::
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続きが気になって仕方ありません。
感想は最後に…