結局僕はユノさんの言葉に何も答える事が出来なかった
何かを決意した様にその場にすっくと立ち上がるユノさん
「チャンミン
これから行って来る」
「え？何処へですか？」
「警察」
「・・・・え」
「さっき店でチャンミンに言われた事.....
俺ずっと考えてたんだ
自分は今どうするべきかって」
「ユノさん・・・」
「何言われようとも
分かってもらえるまで誠意を持って話してみる」
「......はい
ユノさんは何もしていないんですから」
「チャンミン…俺さ
俺の夢もう一度聞いてくれる？」
「はい」
「俺は自分の夢を大切に思ってる。
一瞬の花を咲かせるためにステージに上がるんじゃなくて
息の長いパフォーマンスの出来るアーティストになりたい………
歌やダンスを通して
自分の持てる全ての誠意を込めて思いを伝え続けていたい
見てくれる人が幸せな気持ちになれる様に
応援してくれる人に夢や希望が伝えられる様に……」
僕は涙が溢れ出た
ユノを思い出して泣いた訳じゃない
ここにいるユノさんが
あまりにも眩しくて胸が一杯になったから
警察に行けば事件は過去の事とはいえ
今だに組織に追われ続けて命の危険もあるとしたら
事実を確認するために元職場の関係者にも聞き込みが入るだろう
それがもし法に反する金だとしたら
職場側も口を割らずにユノさんを訴える事はまず無いはずだ
組織の存在も警察に知らせる事で取り調べが入り
ユノさんには手を出せなくなる可能性が強い
ただ・・・
国籍の違う韓国人のユノさんの証言を
警察側がどこまで信憑性のあるものとして捉えてくれるのか・・・
あるいは
ユノさん自身が逮捕されてしまう可能性もある訳で・・
ユノさん・・・・
ユノさんは自分はやっていないと断言しても
先輩の事を話す気はないんだろうな・・・・
「あの・・ユノさん
行くのは明日の朝でも・・・
もう夜も遅いし・・・」
「いや、決断が変わらないうちに行く
今夜一晩またチャンミンと一緒に過ごしたら俺・・・
行きたくなくなるかもしれないし」
・・・ユノさんは覚悟してるんだ
もしかしたらしばらくの間ここには帰ってこれないかもと・・・
だからさっきは・・・あんな事言ったんだね・・・
僕を巻き添えにしないように
「待っててほしい」とは言わなかった
僕が大事な人の元に帰れるのかを確認して
もうこのまま二度と会えないかもしれないと
来世の夢まで話して・・・・
「チャンミン
お願いがあるんだ」
「.......はい？」
「チャンドラさ
妹のとこに預けようと思うから明日までここにいてくれるかな？
後のことは全部妹にお願いしようと思ってる」
「あ、はい.....
僕は....出来る事は何でもします」
「しょうもない兄貴だなハハ.....
チャンドラ....元気でいろよ
必ず迎えに行くからね
いいか、いい子で待ってるんだぞ」
「クゥ～ン」
チャンドラはユノさんの気持ちが分かったのか
その場でお座りをして
それ以上ユノさんを追いかけようとはしなかった
「じゃ行って来る」
「ユノさん待って」
玄関口に立つユノさんの所に行ってしゃがみ込み
ほどけた靴紐を僕は丁寧に結び直す
「チャンミン・・
勇気をくれてありがとう」
「ユノさん・・・」
「チャンミナ・・・
サランヘヨ・・・・・」
そう言ってユノさんは背中を向けてドアを開ける
その後姿に僕は胸が張り裂けそうになった
「ユノ・・・・・ユノさん・・・・
僕は・・・僕は・・・」
「僕はあなたをずっとここで待っています」と
そう言ってしまいそうだった瞬間
静まり返った部屋に電話のベルが鳴り響いた
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