それからも老婆の語りは続いた
火葬が行われなくなってからは
ここは若い恋人達が訪れる場所になっていった
それはこのあまりに美しい湖と光る砂のせいだと言う
一度ここに来た者はその魅力に取り憑かれ
何度も足を運ばずにはいられなくなる
いつの日からか
この神像に祈りを捧げると
互いに結ばれるという言い伝えが広まったそうだ
「へぇ~
素敵な伝説ですね~
縁結びの神像様という事ですよね」
「でも、そんなに幸せな神像に
なぜ今は誰も訪れなくなったのですか?」
老婆は僕とユノの瞳の奥を見るように
少し悲しげな表情をして眉間を寄せ
ゆっくりとした口調で語り始める
「........その昔
人生に困惑した異国の若い男女がここに来た
結ばれる事が許されず
逃げる様にこの地に来た二人は
神像にも木にも命があるものと信じ
来る日も来る日も祈りを捧げ
幸せな互いの将来だけを
それだけをただ願った」
「何かの理由で
結ばれる事が出来なかったんですね
その恋人達......]
「祈りは....届いたのですか?」
「願いは叶わなかった」
「え.......」
「よっぽどこの湖に取り憑かれたのじゃろう...
あの子らの願いは変わっていった
先が見えない将来よりも
ここで時間を止めてしまいたいと
互いに願うようになっていった.....
この神像や木の様にな」
「それで?
その人たちはどうしたんですか?」
「自分たちの故郷には帰らず
ずっとここで暮らしたという事ですか?」
僕達は
どんどん老婆の話しに引き込まれていった
「あの子らは....
やがて同時に命をおとした」
「え....」
ユノと僕は顔を見合わせる
その瞬間
湖が波打ち周りの木々が左右に大きく揺れる
「事故....ですか?
それとも自ら命を絶ったとか.......」
「どちらでもない
あの子らはただ前に進む事を止めただけじゃ」
老婆は一瞬、悲しげな瞳をしたかと思うと
険しい表情になり
しゃがれた声でこう言った
「神像や木にも命はある
しかし
自ら将来を切り開いていく事ができるのは人間だけじゃ
時間を止めるという事は無になる事
無になりたいと願った瞬間
人間は人間ではなくなる」
「お前達には
ここがどんなところに見えるかとさっき聞いたが」
「はい」
「人間はプラスにもマイナスにも
自分次第で心を変える事が出来る
マイナスの心を持った人間がここに来れば
ここはとても悲しくて寂しい場所に映るだろう
そして現実から離れたいと願うほど
この場所の魅力に取り憑かれていくのじゃ」
「マイナス.......ですか?」
「逆にプラスの心を持った人間の事は
今のお前達には言うまでも無いが
しかし油断はならんぞ
光も闇も
善も悪も
この世のものは紙一重じゃ
惑わされてはならない」
「その....恋人達は....
マイナスの心を持ってしまったという事ですか..?」
「それは本人達にしか分からん事じゃ
あるいはそれで幸せだったかもしれないからな
しかし犠牲になった命に罪は無い」
「犠牲?」
「女の方は身ごもっておった」
「え......」
「本人達も気づいていなかったのかもしれん
しかし
先がある将来を奪う事は
どんな理由があっても許されん事じゃ
例えそれが親であってもな」
僕とユノは老婆の深い言葉に何度も何度も頷いた
そして何故か次から次へと涙が溢れた
しばらく厳しい表情をしていた老婆は
次第に優しい顔に変わっていく
子供の様に泣きじゃくる僕とユノを見て
「.......お前たちは
そういう形で結ばれたか」
「.......え?」
「人間結ばれ方は様々じゃ
男女の間が全てではない」
老婆の一言一言を聞くたびに
僕の心は不思議なほど穏やかになっていった
胸のつかえが取れると言うのは
こういう事を言うのかもしれないと思った
「ところでおばあさん.......
その恋人達とはお知り合いだったんですか?
さっき、あの子らって......」
「大昔の話だ
最後にお前たちに聞く
今不幸か?幸せか?
不幸なら無の世界に行ける
それはなにも考える事のない無の世界
永遠に苦難から逃れる事も出来るだろう」
「幸せです」
僕とユノは即答で答えた
だって本当のことだから
この先に苦があろうと難があろうと
僕はユノとなら必ずやっていける
楽しい事ばかりじゃなくても
嬉しい事ばかりじゃなくても
悲しかったり辛かったり悔しかったり
そんな時こそユノと一緒にいたい
ユノを支えてあげたいし僕のそばにいてほしい
泣きたい時も笑いたい時も
いつでもどんな時も隣にいたい
ユノが僕の大切な存在である様に
僕もユノの大切な存在でありたい
その声で
僕の名前をずっと呼んでいてほしい人
その指で僕の髪にずっと触れていてほしい人
その瞳でずっと僕を見詰めていてほしい人
この呼吸が続く限り
僕はユノと東方神起でいたい
老婆は僕とユノの目をじっと見詰めた
「生きているうちにしか思いは伝わらない
ユノ チャンミン
輝きなさい命ある限り」
そう告げると初めて僕達に笑顔を見せた
僕とユノは向き合って
手と手を繋ぎ固く指を結びながら
互いの瞳を見詰めては
心と心がひとつになっている事を深く確認する
2人でにこっと笑って相槌を打つと
沢山の事を教えてもらった老婆に感謝をして
お礼を言おうとユノと同時に前を見る
しかし
そこにはもう
老婆の姿はなかった
つづく
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いつも読んでくれてありがとうごじゃいます<(_ _)>
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