砂浜を歩き始めて少し経った頃
ふと振り返ると一人の老婆の姿を見つける
「あ、人がいるよ
ここの寺院の由来でも聞いてみるか?
チャンミナ言葉分かる?」
「え、あ....はい
少しなら分かるけど、でも...
いきなり話しかけるのも何だか....
あ、ヒョン!」
「ハローー」
即座に走っていき老婆に話しかけるユノ
突然の異国人に話しかけられて
驚きはしないだろうかと思いながら
僕は片言のこの国の言葉でゆっくり語りかけてみた
「あの、すいません
ここはどういうとこですか?
寺院は閉鎖されているのですか?」
曲がった腰に鈴の付いた縄を巻きつけ
砂浜をよぼよぼと歩く白髪頭の老婆
足を止めてゆっくりとこちらを振り向き
険しい顔で僕の目をじっと見た
「ここは....
忘れられた場所になってしまった」
「あ....いきなりすいません
僕達がここにきたのは....」
「知っておる」
「え?」
「チャンミナ
おばあさんやっぱり言葉通じないみたいだな」
「なんか
僕達がここ来ることを知ってたって....」
「え?何?
おばあさん何も言ってないよな?」
「いま、僕に話しかけました
多分言葉があんまり通じてないのかもしれないですね」
僕が再度話しかけようとするとその老婆は
今度はユノの目をじっと見た
「ここは....
忘れられた場所になってしまった」
「え?
あの、おばあさん言葉が分かるんですか?」
「私はお前達の心に話しかけておる」
僕とユノは互いに顔を見合わせた
心で会話をしているというその老婆の声は
確かに間近に聞こえて
それはまるで耳元で話しかけられているかの様に
クリアで自然に僕達の中に入ってくる
しかし目の前のその姿は
一切言葉を発していない様にも思えて
この良くわからない状況に僕達は
頭では理解しがたくても
何故か無性に心が捕らわれ
老婆の語りかけに次第に引き込まれていった
「お前達には
ここがどんなところにに見える」
ユノは即答で答えた
「はい
僕は凄く素敵なとこだと思います!
景色も美しいし空気も綺麗だし」
「お前はどうだ」
老婆は僕の目を奥深く見て問いかける
「あ、、はい
僕は....僕はあの
ここは以前来ようと思って..その....
静かな閑散とした景色に吸い込まれて
気持ちがとても安らいだので...
でも実際に来てみて
やっぱり美しくて素敵なとこだと思いました」
すると老婆は僕達から目を反らして
遠くを見ながらゆっくり頷く
「昔はここは賑わった場所だった....」
そう切り出しながら
この地の色々な言い伝えを
しゃがれた声でボソボソと語り始めた
この国では一般の村民が亡くなると
費用が準備されるまでは遺体を数年土に埋葬するそうで
準備が整うと数年放置した一度埋めた遺体を掘り返し
御輿に載せ火葬場へ運ばれ
合同火葬儀礼という村共同で儀式を行ったり
あるいはお金の持っている人の儀式に便乗したりするそうだ
昔はここで観光客相手の
火葬ツアーというのも行われていたらしく
一日中、人がひっきりなしに集まっていた
しかし場所的に辺鄙なところというのもあり
いつからかそのツアーは行われなくなり
それで村はもっと貧乏になったと
「え.....ここで?」
「そうだったんですね....」
もともとこの国では
火葬は悲しむべきとかではなく
死者の魂を天国へ送り届けるという意味の儀式であり
沢山の人が集まる事は良い事とされている
「そうかぁ....
国によっては色々と風習が違うよな」
「ここ
以前はそういう場所だったんですね...」
「あの.....おばあさん
さっきから凄く不思議に思ってたんですけど
ここの砂はなんでこんなに光るんですか?」
「ここには人骨が混ざっておる」
「え、、
あ.....火葬のときの....
そうだったのか....」
少し衝撃だった
何とも思わずにさっきまで歩いていたこの砂浜に
人の骨が混ざっていたなんて......
そっとその場にしゃがみ込むユノ
きらきらと光る白い砂をじっと見詰めると
左手でそっと握って救い上げ胸にあてて目を閉じる
深く祈るように思いを込めると
指の間から砂をサラサラと下に撒いた
僕も同じ様にその場にしゃがみ込み
砂を握っては胸にあて
深く祈りを込めて指の隙間から下に撒いた
風がフッと吹いて湖が柔らかく波打つ
老婆は僕達をじっと見詰めた
「色々と教えて下さって本当にありがとうございます
僕この国の事もっと知りたくなりました」
ユノは老婆に聞く
「あの石像にかかってる
白黒の模様は火葬と何か関係あるんですか?」
「石像ではない」
「え?違うんですか?」
石の像は神像と呼ばれ
白と黒の格子模様の布は
サプット・ポレンといい魔除けだそうだ
「魔除け?」
「この世には善なる神々と共に悪しき神々
悪霊たちも存在し二極間のバランスの上
世の中は成立している
自然は全て
光・闇・善・悪・生・死という対になり
複雑な波動を発して濃密な場を生み出している
そしてここでは神像、祭壇、神木も
全てが人間と同じ扱いとされるのじゃ」
「そういえば......
この布は街でもよく見かけました
僕がここに着いた日
繁華街に行ったんですけど
お店とかの入り口の石像にも
同じ模様の布が巻いてあったような...」
「あ、そういえば
トナカイの絵を買った店にもあったよな!
確か木にも巻いてあった」
「それは魔物が入って来れない様にしておる」
「....なるほど....
そうだったんですね..
ちゃんと意味があったんだ...」
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫!!おばあさん??}
老婆はいきなり苦しそうに咳込んだ
腰に付いている鈴が咳をするたびにチャリンと鳴り響く
僕とユノは心配になり老婆の背中をさするが
その背中のあまりの堅さと冷たさに少しびっくりする
「冷たい....
おばあさん大丈夫?お家どこですか?
僕おぶっていきますから教えてください」
「私にかまうな」
老婆はそう言うと僕達の手を払いのけ
しゃがれた低い声でまた語り始めた
「.......火葬がここでなくなってからは....」
つづく
(この物語はフィクションです)
愛のポチポチいつもありがとうございます!
更新の励みになってます感謝感激




いつも読んでくれてありがとうごじゃいます<(_ _)>
謎のおばあさんが出てきましたね^^;;
この場所には色々と深い関わりが2人にある様です
勿論、お話の中での事ですが
あっ、石像や布の由来、火葬ツアーは実在のお話です^^
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