いくつもの急な坂を越えてやっとまともな道に出る
「はぁはぁ~~
きっつ~~~~上り坂だらけ」
「ハァハァハァ....
ほんとですねーー
やっぱり自転車って
ちょっと無茶だったかもしれないですねぇ」
「喉かわいちゃったなぁ
チャンミナ大丈夫か?」
「お腹......空きました」
と言っても見渡す限り生茂った緑の中
周りには店などあるはずもなく
食べる物も飲む物も見当たらない
ユノはキョロキョロと辺りを見回す
「おっ、あれイケるかもしれない!」
そう言うと
ヤシの木を目掛けて落ちている石ころを次々と投げていく
「ヒョン
ヤシの実を落とすんですか?」
「そうそう
前にガーナ行った時にヤシの実ジュースっての飲んだんだけどさ
すっげー旨かったんだよ~
天然はめちゃくちゃ旨いだろうなぁ」
ひたすら石ころをバンバン投げつけて実を落とそうとするユノ
しかし石が小さすぎてびくともしない
僕は辺りを見回して
どこかにヤシの実が落ちていないか探した
すると数メートル先に
陥没して割れている実がいくつか転がっているのを見つける
その中のまともなものをひとつ手に取り
「ヒョン、これ大丈夫そうですよ」
息を荒くして石をひたすら投げていたユノが手を止める
「おっおおお
チャンミナよく探したなぁ~~
どこにあったのこれ?」
「すぐそこに落ちてました
おそらく僕達の様に喉渇いた人たちが
必死で何かしら投げて落とそうとしてたんじゃないでしょうかね?」
「あーなるほど
何人もの人が通りすがっていつの間にか落ちたってやつかぁ~
しかしよく見つけたねぇチャンミナ」
「はい
ヒョンみたいな人がきっと他にも
何人もいたかもしれないなって思って...
だとしたらそのうち下に落ちる事もあるんじゃないかなって」
「そっかそっか!さすがチャンミナ!
やったぁ~ラッキー♪」
上にあるヤシの実を必死で落とそうとしたユノ
下に落ちているかもしれないヤシの実を探した僕
こんなところでも僕とユノの性格の違いが出る
ユノは直接的に手を付ける事が多く
目の前に飲みたい物があれば一点集中で
まずはそこを目掛けて全力で手に入れようとする
僕の場合
とりあえずそれを手に入れるには何が必要で
確実に失敗しないためにはどうしたらいいのか
慎重に考えて先を読む方だ
しかし
たびたび読みが微妙に外れてしまう事もあり
何かを起こそうとする時
かえって人より遅れをとってしまう事も少なくも無い
「よーし
いただきまーす!」
ユノはヤシの実を両手で持つとすっくと立ち上がり
膝蹴りをして割ろうとするジェスチャーをした
「ヒョン!待って」
「ん?なに?」
僕はヤシの実を手の甲でコンコンと軽く叩いてから
さっきの場所から陥没しているヤシの実をいくつか持ってくる
「これにまずぶつけてみて
最初に固さを試してみた方がいいですよぉ」
「そう?
俺の膝わりかし固い方だからイケると思うよ」
「いえ、もし今こんなとこで怪我したら大変ですから..
無茶はしないでください」
ユノはヤシの実を手でコンコンと叩くと
「うん、まぁ、固いな
じゃ、こっちにするか」
両手で掴みヤシの実同士を何度もぶつけ合うが
もう少しというところで中々割れない
「しぶといですね」
「やっぱ膝蹴りの方がイケるんじゃないかなぁこれ」
「ダメですよ~
こんなに固いんだからヒョンの膝壊れちゃいます」
「よーし!待ってろ~
絶対割ってやるからな」
とその時
ユノのリュックから携帯の着信音が鳴り出す
「あ、電話かぁ」
ヤシの実を叩く手を止めて
リュックから携帯を取り出しユノは電話に出た
「おぅ、どうした?
え、昨日?あぁ全然気づかなかった悪かったな
うん。今まだ旅の途中だ」
僕の目の前でする電話の会話
聞かれちゃまずい内容ではなさそうだ
あ........
きっとマネージャーかもしれない
そうだ...
多分来週の仕事の打ち合わせとかかもしれない
しかし次の言葉で
僕のその予想が外れていた事に気づく
「落ちついたか?
ん?明日?あぁ分かった
もう泣くなよ」
「ごめんな
そばにいてやれなくて」
......................
短い会話の後
ユノは電話を切ってまたヤシの実同士を叩き合わせる
「ヒビは入ってきてるんだけどなぁ
チャンミナこれ下に置いてしっかり持ってて」
................
「あれ?
チャンミナ?聞いてる?」
「.....聞いてます」
あんな電話の受け答えをしていた後なのに
何事も無かった様に振る舞ううユノ
僕の中でふたつの思いが胸を過ぎり少し混乱して
ボーッとしてしまっていた
ひとつはどうにもならない
抉られるような心のざわめき
もうひとつはユノを信じたいという思い
こんなに僕を大切に思ってくれているユノ
ユノは僕に沢山の幸せをくれている
それだけで....
それだけで十分じゃないか
誰とどうであろうと
僕にとってのユノは....ユノは.....
「チャンミナ?どうしたボーッとして
腹減ったか?」
「いえ....あ...うん.....減ったけど」
「よし、じゃ、こいつ割って飲んだら早く行こう
しかしここまで来ると意地になっちゃうよなぁ
これしっかり持ってて」
少しヒビの入ってきたヤシの実を僕に手渡す
「これでいい....?」
「うん、しっかり持ってね」
僕が手で地面にヤシの実を固定すると
ユノは肘を勢いよく下ろして叩き割った
ゴキンッ「ヒョン!大丈夫!!」
「大丈夫大丈夫
俺、肘も固いから」
そうは言うもののユノの肘からは血が滲み出てきている
「ヒョン!怪我してますよ!」
「ん?あぁこれくらい何とも無いよ
舐めりゃ治るってアハハ」
僕は即座にユノの腕をとり
肘に唇をあてて舌で血を舐める
「あ、、チャンミナ、、
何やってんだよ、やめ、」
「じっとしてて」
「チャンミナ、、」
滲み出ている血を全て舐めとると
僕は自分のリュックの中からハンカチを出して
ユノの肘にきつく巻いた
「薬......持ってくれば良かった..」
ユノは目をぱちくりさせながら
「ありがとう.....でも
チャンミナはこんな事までしなくていいんだよ...」
「こんな事って?」
「だから...さ
俺がちょっと流血したからって舐めるとか..」
「舐めりゃ治るって言ったでしょ」
「え?まぁ..言ったけど..
俺...そういう事あんまお前にさせたくないし」
「嫌なの....?」
「いや、嫌とかそんなんじゃなくて」
「............したじゃないですか」
「え?」
「ヒョンだって昨日僕の肩の傷のとこ舐めたじゃないですか
なんでヒョンは良くて僕はだめなんですか!」
電話の会話の件でモヤモヤしていたせいか
僕はムキになってつい大声が出てしまった
「あれは...」
「あれは何ですか?
血を舐めたんじゃないんですか?
何で僕にあんな事したの?
ヴァンパイアだったからとか言うの!!」
言葉に出すつもりなんてなかった
こんなこと
こんなこと言うつもりじゃなかったのに
ユノを責め立てる言葉が次から次へと僕の口から吐き出る
「ずるい......
ヒョンはずるいよ....
どうしてヒョンはよくて僕はだめなの...
他の人だったらいいの.....?.」
「何言ってんだよ
でもほら、汚いだろ...
今ヤシの実割ったわけだから...
泥だってついてるし....」
「汚くなんてない!
きたなくなんてないよ....
ヒョン......ぼく........たい...せつな.....ぼくの.......」
その後の言葉が出てこなかった
目頭が急に熱くなり
知らない間に僕の瞳には涙が溜まり
瞬きをすると今にも溢れ出そうにいっぱいになった
ユノは少しびっくりした顔をして
僕を見詰める
そして
今にもこぼれそうなその涙を
親指でそっと拭きとると
何も言わずに包み込むように
優しく肩を抱いた
つづく
(この物語はフィクションです)
愛のポチポチいつもありがとうございます!
元気を貰っています(*´ー`*)
更新の励みになってます感謝感激




忘れかけてた例の電話
かかってきちゃいましたねこんなとこで^^;;
ユノが自分を大切に思ってくれているのが分かっているゆえ
それ以上は望まない様に自分にいい聞かせようとするチャンミン
しかし心とはうらはらにユノを責め立ててしまいました(´_`。)セツナイー
こちらは動画
→
ハピくるっ→
JIJIPRESS
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